盗人宿と隠密宿
雲霧仁左衛門は、盗賊団のアジトとして各地に盗人宿をおき、
信頼できる手下を店の主人として置いています。
たとえば王子のとしま屋、浅草橋の佐原屋、千住の信濃屋などがあります。
一味の面々はここで休んだり、食事を取ったりするのはもちろんのこと、
情報を伝えたり受け取ったり、お金や物資の受け渡しなども行われます。
そして一味の者が集まって、打ち合わせ、出撃、ということもあるようです。
盗人宿に似たものに「つなぎ」というのがありますが、
これにも商店や宿が利用されます。
ただし利用目的は情報の受け渡しに限られますね。
盗人宿は水滸伝の梁山泊みたいに固定的なアジトではなく、
危なくなればすぐに他人に売り払われてしまうものです。
それで盗人宿は転々と変わってしまうのでありまして、
盗賊改方から見ればなかなか雲霧一味を捕捉できないということになります。
ただ、危険がなければ何年でも同じ場所にあって近隣との関係を強め、
一帯の情報を集めやすくまた怪しまれにくくすることもできます。
さて、盗賊団が秘密のアジトを持つのは当たり前ですけど、
幕府のほうも似たようなものを持っているのですね。
隠密宿と呼ばれます。
隠密宿の主人は、ときによって二代三代にわたり、
その土地の、その町の住人になりきって生活をしている。
関口雄介はこれを聞いた時、高瀬俵太郎から聞かされた盗人宿の話を思い出し、
幕府も盗賊も同じようなことをしていると思い至って苦笑します。
隠密宿のほうもその働きぶりは徹底していまして、
関口や鈴木又七郎に踏み込まれて隠密宿だということがばれたと知るや、
隠密井上助右衛門の妻は家に火を放ち、自分もろとも灰燼に帰してしまいます。
権力が関わっている分、盗人宿よりも悲惨な最期になってしまったようです。